彼は結婚したことがあるんだ。
昔ね・・・。

この007シリーズ第16作目「消されたライセンス」は、故ダイアナ妃から一番原作のボンドにイメージが近いとお済み付をもらったティモシー・ダルトンがボンドを演じています。

この作品では、いくつかの掟破りと、いくつかの別れがあります。
まず、掟破りから言うと、タイトルの通り、今回のボンドは、007の有名な代名詞でもある、「殺しの許可証(ライセンス)」を剥奪されるというものです。
次に、過去何回かボンドの危機を救ってきたCIAのフィリックス・ライターが、今作で7度目の登場を果たしますが、007シリーズで色々なキャラが居る中、ライター役だけは、これまで同じ役者が演じた事が無く、毎回役者が代わっていた(ダニエル・クレイグがボンド役を演じることになった007新シリーズからはライター役はジェフリー・ライトが連投している)のですが、今回は第8作目「007/死ぬのは奴らだ

また、内容(ライターがサメに襲われるシーンや悪役が破裂死するシーン)がハードすぎて、ファミリームービーであるはずの007シリーズ前代未聞の15歳未満鑑賞禁止となりました。
そして、何よりも前作である第15作目「007/リビングデイライツ」で、元になる原作がなくなったため、本作からは、初の完全オリジナルの映画脚本となったことです。
別れについては、何と言ってもシリーズ第13作目「007/オクトパシー


また第12作目「007/ユア・アイズ・オンリー
第1作目「007/ドクター・ノオ

色々な意味で感慨深い作品であります。
「007/消されたライセンス」のストーリー:
「私はイギリスの諜報部員だった。
ああいう連中には詳しい。」

数々の作戦を共に乗り越えてきた親友フィリックス・ライターの結婚式に共に向かう途中、「サンチェスが現れた」と、ライターの友人DEA(麻薬取締局)エージェントから援護要請の連絡を受け、ボンドとライターは現場に向かう。

サンチェスとはDEAが長年追っている麻薬王だが、自身の鼻薬の効く人脈で固めた地元を離れ、アメリカ領内に姿を見せるというのは、千載一遇の捕獲チャンスだったのだ。

ボンドとライターは、ヘリコプターに乗り込み、逃走するサンチェスが操縦するセスナを、フックで釣り上げ、捕捉。

そのまま二人は、空からスカイダイビングで花嫁デラが待っている教会に降り立ち、何とか遅刻せずに済んだ。

しかし、サンチェスは護送責任者を買収し、逃亡。
新婚初夜のライター夫妻を襲い、デラを凌辱し、殺した上で、ライターを捕らえて鮫に足を食べさせた。
ボンドは、サンチェスの逃亡を知り、ライター宅に急いだが、そこで無残なライター夫妻の姿を発見する。

ボンドはサンチェスへの報復を誓い、個人的に捜査を始めるが上司Mがじきじきに訪米、任務を逸脱した行為に対して彼を諌め、別の任務を指示するが、ボンドはこれを断り、任務放棄、命令違反等で「殺しのライセンス(殺人許可証)」を剥奪され、拘束されそうになるが、逃亡する。
果たして孤立無援の闘いで、ボンドは親友夫婦の仇を討つことが出来るのか?

実は、原作シリーズでもフィリックス・ライターはサメの生簀に放り込まれて手足を失うシーンがありますが、それは原作の小説「死ぬのは奴らだ」でのことです。
映画「007/死ぬのは奴らだ」で当のフィリックス・ライターを演じたデヴィッド・ヘディソンが、本作で再度この役を演じたのは、この原作エピソードとのシンクロでしょう。

他にも原作とのシンクロ場面はたくさんあります。

本編で、ボンドと、ボンド曰く「何度も命を救ってくれた親友」フェリックス・ライターのコンビと共に、結婚式に向かう車中一緒に黒人のシャーキーが乗っていますが、シャーキーは、映画初登場キャラクターなのに、映像を観る限り3人は、昔からの仲らしく、ボンドの復讐にも協力するのですが、これは明らかに「ドクター・ノオ」のクオレルを意識したキャラということでしょう。

クオレルというのは、原作の「死ぬのは奴らだ」「ドクター・ノオ」の二作品に登場するキャラです。
映画シリーズでは、ジャマイカの漁師として、第一作目「007/ドクター・ノオ」に登場します。

この時、ボンドとライターに協力し、クラブ・キーの調査をしますが、彼は、龍に扮したドラゴンの火炎放射器で死んでしまいます。
これは小説でも同様なのですが、彼は映画シリーズ第八作目「007/死ぬのは奴らだ」にあたる原作第二作目「死ぬのは奴らだ」に登場し、原作「ドクター・ノオ」にも連投するのです。
つまり、時間軸が原作と逆で「死ぬのは奴らだ」の後が「ドクター・ノオ」となるところを、映画シリーズでは第一作目ですでに死なせてしまっていたため、苦肉の策として、「007/死ぬのは奴らだ」では、クオレル・ジュニアとして再登場させることになりました。

この時も前回同様ライターが再度出演。
共にボンドと三人で協力していました。

さて・・・この「007/消されたライセンス」は、一般的に評価が低く、人によってはシリーズ最低作という声もあります。
ファンサイトのレビューを覗いても、ほとんどの方が、この作品をこき下ろしています。
前作「007/リビング・デイライツ
これは、いつものエピソード(Mから呼びつけられて、ボンドに任務を説明するシーンや、ボンドとマネペニーの粋な大人が楽しむ会話)が、ストーリーの進行上無くなったこと。
そして、ファンや批評家が最も重要視する裏切り行為が、(これまで、恨みがましく皮肉を言ったり、時に反抗的な態度を見せたことはあってもMに対する忠誠心は、微塵も揺らいだことは無かったにも係わらず、すべてをアメリカに任せろと言うMからの命令を無視し、退職を申し出、「殺しのライセンス」を剥奪され、あろうことか仲間の諜報員に殴りかかって逃走する)などボンドとMの関係を書き換え、これまでのシリーズが築いた歴史を踏みにじったということだそうです。
しかし、実際はMに危害を加えた訳ではなく、あの状況でMに手を出さなかったこと自体が、逆にボンドのMに対する揺ぎ無い忠誠心の発露であり、それを象徴するシーンだといえないでしょうか?
そう思ってみてみるとこれらの批評は、いささか被害妄想的なものだと感じられます。

(愛銃の返還も迫られ、究極に追い込まれた状況にも関わらず、場所がヘミングウェー記念館だけに、「これが本当の“武器よさらば(A Farewell to Arms)”ですな」と言う台詞を吐けるティモシーのボンドは、やはりボンドらしかったです)
・・・とはいえ、批判意見の中には、「あんな個人的に復讐をするほど、ボンドは友情や情に厚い男ではない」とか、「どの作品でもプロとして任務を果たし、イギリス・女王陛下への忠誠心が揺らいだことはないのに任務を放棄し、私情に駆られるというのは、プロである007らしくない」等というものがありましたが、確かにごもっともな意見だといえます。
特に長年007シリーズを愛してきたファン心理としては、上記の感想は当然ともいえます。
では、制作側が原作がなくなったエピソードを作る際に、苦し紛れにボンドの性格を変えてしまったのでしょうか?
上映当時のアクション映画の時流(ちょうどダイハード・シリーズやリーサル・ウェポン・シリーズが流行っていました)に合わせて、これまで苦労して作り上げたボンドのヒーロー像を壊してまでも、アウトロー気味なヒーロー像にシフトしたかったのでしょうか?
いいえ、違います。
この作品で描かれるボンドこそ、それまで20年以上ボンドを映像で描き続けた制作側が満を持して放ったこれまでの集大成といってもいい作品、原作を元に制作していた世界中にファンのいるシリーズを、これから完全オリジナルの脚本を使用してリニューアルする、その節目に当たる作品として相応しい、これまでのシリーズの総決算的作品になっています!!
どういうことかという解説は・・・以下ネタバレを含みますので、本編を御鑑賞後にクリックしてください^▽^

「007/消されたライセンス」の感想や解読の様なもの:
「ここまで、お前にこだわる理由を知りたくないか?」
これまでシリーズ5作品を監督し、この「消されたライセンス」を最期にシリーズを去ることになったジョン・グレン監督は「イアン・フレミングのボンドを、数十年ぶりに復活させたんだ!私の最高傑作だ!いつか時が経てば、見直される時がくる!」と、この作品を評していました。
これは、思ったように評価が上がらなかった作品に対する負け惜しみで放たれた捨て台詞なのでしょうか?
大塚は違うと思いました。
ジョン・グレン監督の言うとおりだ!と思いました。
本作品は単体で見るとただの友人夫婦を襲った悲劇に対しての復讐ドラマとなりますが、シリーズを通して見ると別の見方が出来てきます。
どういうことかというと・・・
本作品でボンドは、友人夫婦の復讐をすることで、自分自身の「やりのこし」たままずっとひっかかっていたことを完遂したのです。
それは、どういうことでしょうか?
本作の冒頭、新婦のデラが、次はボンドが結婚できるようにと靴下止めを渡そうとしますが、ボンドは哀しく笑って、それを辞退し、去って行きます。

不思議そうな顔をするデラにライターは「彼は結婚したことがあるのさ。昔ね・・・」と言った通り、ボンドは、第6作目「女王陛下の007
以下、「女王陛下の007」の簡単なレビューです。

MやQ、涙するマ二ペニーらを含めた大勢の人に見送られ、新婦のテレサ(トレイシー)と花を飾った愛車アストンマーチンDBSでハネムーンに出発するボンド。

しかし途中、車の花を取り除こうとボンドが車を出た時、ブロフェルドとその秘書イルマ・ブントの車が背後から接近!

機関銃を乱射しながらあっという間に通り過ぎて行く車。
追いかけようと車に戻るボンド・・・
ふと助手席を見るとそこには、額を撃ち抜かれたトレイシーの姿があった・・・

まるで、眠っているかのようなトレイシーを抱き寄せ、うなだれるボンド。
騒ぎを聞きつけた警官が、ボンドに変りが無いか尋ねる。
「なんでもない。疲れたから眠っているだけなんだ」
トレイシーを自分の胸にうずめ、
「WE HAVE ALL THE TIME IN THE WORLD(世界は二人のものだ)・・・」
悲しそうに呟くボンドの頬に流れる涙。
そして、
『WE HAVE ALL THE TIME IN THE WORLD

もし気になったら、大塚の書いた「女王陛下の007のレビュー」もあわせてご覧下さい。
より一層お楽しみいただけると思います。
さて!
すでに皆さんも、これが本作品のライター夫婦とほぼ同じ状況であることに気付かれていると思います。
タイミングも共に、結婚式当日で、いざ!ハネムーンへ!というタイミング。

どちらも新婦が死亡し、犯人は、これまで夫が追っていた犯罪者であること。
今度こそ!
ボンドは、そう思った筈です。
何が今度こそなのか?
それは「仇を討つ」ことです。
007シリーズでは、「女王陛下の007」で、妻のテレサをエンディングで殺され、続く「007/ダイヤモンドは永遠に


しかし、007シリーズの中で、イルマを探し出して復讐を果たすシーンは描かれませんでした。
ボンドが、眼の色を変えて取り乱しながら復讐心に燃えるのは、仕方がないでしょう。
今度こそ、今度こそ仇を討ちたい。
けじめをつけたい!
ライター夫妻の姿に自分達の姿をダブらせてしまい、無意識にそういう思いがボンドの心を支配していたのです。

どうでしょうか?
ボンドが任務を放棄し、やむにやまれぬ思いで逸脱してしまう心情が御理解いただけたのではないでしょうか?
本作品が、原作がない初めての007ムービーということで、制作サイドも並々ならぬ覚悟で挑戦したんだろうなぁというのを、この脚本から感じちゃわないですか?
これまでのシリーズで描かれた重要なエピソードを、うまく絡めたストーリー展開、原作のエピソードを活かす、ファンがニヤリとするようなキャスティング。
勝負かけてたんだなぁって思います・・・
さて!
これから007シリーズを観始める人は、もちろん、再度シリーズを見直そうという方は、ぜひ「007/消されたライセンス」を観る前にボンドが結婚するシリーズ第六作目「女王陛下の007」と、デヴィッド・ヘディソンがライターを演じるシリーズ第八作目「007/死ぬのは奴らだ」を観ておくことをお勧めします。


また、フィリックス・ライターが出るシリーズ第一作目「007/ドクター・ノオ」第三作目「007/ゴールドフィンガー」第四作目「007/サンダーボール作戦」第七作目「007/ダイヤモンドは永遠に」第十五作目「007/リビング・デイライツ」を観てからだと、ボンドとライターの友情が垣間見られて、更に「007/消されたライセンス」が面白く、違和感無くご覧いただけると思います。




本作の最後、ボンドにトドメを刺そうとするサンチェスに向かってボンドは「ここまで、お前にこだわる理由を知りたくないか?」と言い、動きを止めた相手に無言でライターを見せます。
それは、冒頭の結婚式でフィリックス&デラ夫妻からボンドに贈られたライターで、表面には、“James Loved Always Della&Felix”と刻まれています。

ボンドは、油まみれになっているサンチェスの身体に、このライターで火をかけ、焼き殺します。

そう。
ライターからもらったライターで。
お後がよろしいようで^^;
THE END
OF
“Licence To Kill”
BUT
JAMES BOND WILL RETURN
IN
“GOLDENEYE”
OF
“Licence To Kill”
BUT
JAMES BOND WILL RETURN
IN
“GOLDENEYE”
日本語版DVDは大塚芳忠さんがティモシー・ダルトンの吹き替えをしていますが、大塚的にはやはり↓の小川真司さんがベストだと思います!
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コメントありがとうございます。
そうなんですよ、ダルトンボンドの2作品は両方とも良作、特に「消されたライセンス」は、シリーズ全体にとっても大きな意味を持つ作品だと思います。
評価される日がきっと来ると信じています。
ボチボチ更新ですが、これからも、よろしくお願いいたします。